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IPOのための事前準備ガイドブックを解説してみた

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みなさん、こんにちは。クラウド会計専門公認会計士の中田裕司(なかたゆうじ)です。

2020年11月24日、日本公認会計士協会より、「株式新規上場(IPO)のための事前準備ガイドブック『会計監査を受ける前に準備しておきたいポイント』」が公表されました。

本日は、このガイドブックの概要を紹介し、IPOをご検討の皆様のお役に立てればと思います。

目次

ガイドブック公表の経緯

先述のガイドブックを紹介する前に、このガイドブックが公表されるに至った経緯を紹介します。

実は2012年に同様のガイドブックが公表されていた

今回のガイドブックからさかのぼること8年前、2012年4月13日に、日本公認会計士協会より、「新規上場のための事前準備ガイドブック『上場を目指そうとしている皆さまへ―会計監査を受ける前に準備しておきたいポイントー』」(以下、「ガイドブック初版」とします)が公表されました。

このガイドブック初版が公表されたのは、金融庁、証券取引所、日本証券業協会、日本公認会計士協会により設置された「新興市場等の信頼性回復・活性化策に係る協議会」で、今後実施すべき具体的な取り組みをまとめた「新興市場等の信頼性回復・活性化に向けた工程表」をで提起された、上場準備会社の初年度監査に対応する諸施策の一環としての位置づけです。

ガイドブック初版では、以下の2つの目的がありました。

  • 決算体制整備に向けた大切なポイントの理解促進
  • 上場申請のために必要な監査年度に入ってからの監査契約締結についての理解促進

ざっくり言うと、①監査法人の監査を受ける前に管理体制を整えるためのポイント、②上場申請期の直前2期間に入ってから監査契約を締結する場合の留意事項を理解していただくために公表されました。

IPOを取り巻く環境の変化

ガイドブック初版が公表された2012年以降、

  • 上場直後に業績予想を下方修正する企業が出てきた
  • 大企業・IPO企業問わず、不正会計が明らかになり、監査法人の監査が厳格化された
  • 監査法人の働き方改革や会計士の事業会社等への転出が増えてきて、監査法人内のリソース不足が慢性化してきた

などのIPOを取り巻く環境変化を契機に、大手監査法人を中心にIPO企業の監査を敬遠するようになりました。

一方、ベンチャー企業側も、管理体制を整備する前に監査法人に持ち込んだり、資金ニーズがないのに、監査法人に持ち込んだりといった企業があり、ベンチャー企業側の会計監査に対する理解が進んでいない状況も見られました。

そうしたこともあって、金融庁、日本公認会計士協会、監査法人、ベンチャーキャピタル、ベンチャー企業、証券会社、証券取引所、日本証券業協会といった、株式市場に関係するプレーヤーで構成される「IPOに係る監査事務所の選任等に関する連絡協議会」(以下、「協議会」とします)が設置されました。

協議会の中で、日本公認会計士協会の役割の1つに、「IPOを目指す企業向けのガイドブックの改訂と周知」が挙げられ、「ガイドブック初版」を改訂する形で、株式新規上場(IPO)のための事前準備ガイドブック『会計監査を受ける前に準備しておきたいポイント』」(以下、「改訂ガイドブック」とします)が公表されたわけです。

改訂ガイドブックで言っていること

ここからは、「改訂ガイドブック」の中身について紹介します。

改訂ガイドブックの目的

「改訂ガイドブック」では、次の3つの目的が示されています。

  • IPOまでのスケジュールと各段階において対応すべきポイントの理解促進
  • 決算体制の整備に向けた大切なポイントの理解促進
  • 上場申請のための監査契約締結についての理解促進

「ガイドブック初版」の目的になかった「IPOまでのスケジュールと各段階において対応すべきポイントの理解促進」が追加されました。

ですが、「ガイドブック初版」でも「IPOまでの標準スケジュール」が示され、「改訂ガイドブック」にも同様の記載がありあります。

また、他の2つの目的は、「ガイドブック初版」でも示された目的です。

改訂ガイドブックの内容

「改訂ガイドブック」の目的に沿って、どんなことが記載されているかを紹介します。

IPOまでのスケジュールと各段階において対応すべきポイント

「IPOまでのスケジュールと各段階において対応すべきポイント」では、上場までの各段階(上場申請直前々期以前、申請直前々期&申請直前期、申請期)の3つの段階に分けて、次のことが示されています。

上場申請直前々期以前
  • ショートレビュー(※)を受け、IPOに向けた課題を抽出し、課題の解決を目指す
    ※:監査法人やアドバイザーがIPOに向けての課題抽出を行うこと
  • 監査法人やアドバイザーに相談しながら、内部管理体制を構築する
上場申請直前々期&申請直前期
  • 財務諸表監査を受ける
  • 財務諸表監査は大手・準大手監査法人だけでなく、中小監査事務所もIPO監査を実施しており、IPO監査を行う中小監査事務所リストが公表されている
  • 監査法人やアドバイザーに相談しながら、内部統制報告制度への対応を図る
  • 内部統制報告制度について、一定規模以下の新規上場会社は、内部統制監査が上場後3年間は免除される
    内部統制報告書の提出は必要
上場申請期
  • 申請直前期までにコンプライアンス体制が整備・運用されていることを前提に、コンプライアンス体制について、主幹事証券会社や証券取引所の審査を受ける

まとめると、監査を受けるまでに内部管理体制を構築し、上場会社としての開示制度に対応できるようにし、コンプライアンス体制に問題がないようにすることが求められます。

決算体制の整備に向けた大切なポイント

決算体制の整備に向けた大切なポイントとして、初めてショートレビューや会計監査を受ける際にありがちな指摘をあげて、IPOに関連する会計に関する課題を早期に把握し、対応することを求めています。

  • 証憑書類が整理されていない・網羅的でない・会計処理と紐付いていないので、会計処理の妥当性を事後的に検証できない
  • 現金主義で計上されており、発生主義・収益認識会計基準に対応していない
  • 在庫の棚卸をしていない、もしくは、棚卸をしているが、受払記録がない
  • 原価計算制度がない
  • 固定資産の現物管理・台帳管理ができていない
  • 資産・負債に内容不明の残高がある
  • 役員やその親族がオーナーの会社など子会社かどうかが判然としない会社があり、連結決算の範囲を確定できない
  • 連結決算をするために子会社から必要な情報を入手できない
  • 取引条件に恣意性が介在しやすい、役員や親会社等(関連当事者)との取引が網羅的に把握・整理されていない
  • 事業運営が属人的であり、決裁ルールが整備されていない
  • 残業代の支払漏れなど、決算に影響を与えるような労務管理上の課題がある
  • ITの基本方針や戦略がない
  • 会計処理の前提となる情報システムに関するルールが整備・運用されていない
  • 会社のデータ管理を外部に委託しているが、外部業者から報告を求めたり、会社の担当者が信頼性を検討したりしておらず、社内の情報システムと同じようなデータ管理がされていない
  • 不正を防止するために、けん制がはたらく体制を整えていない(例えば、特定のひとりに管理を集中させている)
  • 将来の見積もりを考慮した会計処理の検討プロセスがない
  • IFRS基準を選択することがふさわしくない

多くなってしまいましたが、どれも上場に向けて解決する必要があります。
(これを解決さえすればOKではありません)

今の段階では、いっぱいあるんだなくらいに思ってもらえれば十分です。

上場申請のための監査契約締結

上場申請のための監査契約締結として、「改訂ガイドブック」では以下の点を挙げています。

  • IPOスケジュールを延期することのないように、会計監査の受入体制を整備する
  • 優先順位をつけてIPOに向けた課題に取り組むことで、準備作業を効率化する
  • 会計監査を受けるために、一般的に想定される項目(※)を課題として認識し、対処する
    ※:収益基盤やビジネスモデルの確立、人材の確保、社内規程・職務分掌・稟議決裁ルールの整備など11項目挙げられています
  • 監査法人やアドバイザーを、上場準備の早い段階で関与させ、要改善事項の全体像を把握し、内部管理体制や改善作業を効率化させる
  • ビジネスモデルと会社規模にあった監査法人と監査契約を結ぶ(大手・準大手にこだわらず、中小も考慮に入れる)
  • 監査法人から監査契約を断られても、何が課題かを認識し、別の監査法人と契約も含めた対応が必要
  • 既に監査対象期間に入っている場合の監査契約は難しい
  • 監査法人との契約を、アドバイザリー契約→監査契約に切り替える場合、早めに監査法人に相談する

まとめると、監査法人やアドバイザーを関与させ、早めに対処する必要があることを言っています。

まとめ

「改訂ガイドブック」はあくまで、IPOに向けて会計監査を受ける際のポイントを示したものです。

IPOに向けては、多くの課題が出てきますが、早めに対処し、効率的に準備することが必要です。

ただ、これらの準備をしたからと言って、IPOが実現できるわけではありません

内部管理体制を整えたうえで、自社のビジネスモデルに優位性があり、自社の株式が投資対象として魅力的であることを株式市場にアピールしないと、IPOを実現できないことをご認識いただければと思います。

編集後記

今日はお天気が良かったので、散髪したついでに、7kmほど散歩しました。

途中、家電量販店に立ち寄って、4Kテレビを見ていたのですが、液晶と有機ELを並べると、有機ELの画質の凄さが際立つことを知りました。
(有機ELは30万円台〜50万円台と高いので、まだ買いませんが。。。)


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