みなさん、こんにちは。クラウド会計専門公認会計士の中田裕司(なかたゆうじ)です。
みなさんが損益計算書を見るときに、売上原価と販売費及び一般管理費(以下、「販管費」とします)とありますが、売上原価と販管費の違いをご存知でしょうか?

会計を生業としている公認会計士・税理士は、売上原価と販管費の区分を意識していますが、世の中の方は、あまり売上原価と販管費の区分を意識しないと思います。
(統計をとったわけではありませんが。。。)
今日は、売上原価と販管費の区分について紹介します。

どうやって区分するの?
売上原価と販管費はそれぞれ次のような内容を指します。
売上原価:販売する商品・製品・サービスを生成するために必要で、売上と販売する商品・製品・サービスが直接紐付けられる費用
(例:商品の仕入コスト、製品の製造原価など)
販管費:営業部門や管理部門で発生する費用で、販売する商品・製品・サービスとは直接的に紐付かない(=間接的に発生する)費用
(例:役員報酬、人件費、広告宣伝費など)
共通点
売上原価も販管費も、売上を獲得するために発生した費用という点で共通します。
相違点
売上を獲得するのに、直接的 or 間接的に発生したかの違いです。
例えば、商品の仕入コストであれば、どの商品を販売するために発生したかを特定でき、直接的に発生したと言えます。
また、営業部門の人件費であれば、どの商品を販売するために発生したコストなのかを特定できませんが、商品を販売するためには営業人員が必要なので、営業部門の人件費は売上を獲得するのに間接的に発生したと言えます。
これって原価?販管費?
SaaS企業のケース
ソフトウェアを インターネット経由でサービスとして提供するSaaS企業は、顧客にサービスを提供するためのソフトウェアを構築したり、サーバーを借りたり、ライセンスを購入したりします。
ソフトウェアを構築し、サービス提供を開始すると、減価償却費が発生しますし、サーバーを借りれば、リース料(賃借料)がかかりますし、ライセンスを購入すれば支払手数料がかかかります。
社内で使用・消費するものであれば、どのサービスを提供するために発生したコストなのかを特定することができないため、販管費です。
自社が販売するサービスを生み出すためにかかるコストは、どのサービスを販売するために発生したかを特定できるので、売上原価です。
なお、ソフトウェアを構築するための人件費、経費は、構築が完了するまで「ソフトウェア仮勘定」として資産計上し、サービス提供開始時に、「ソフトウェア」に振り替えて、減価償却費の計上を開始します。
ソフトウェアの受託開発のケース
ソフトウェアを受託開発する際に、人件費、経費などかかります。
ソフトウェアを顧客に納入する点で、SaaS企業とは異なりますが、考え方はSaaS企業のソフトウェア構築と似ています。
顧客に販売するソフトウェア納入するために発生したコストは、どの製品を販売するために発生したコストなのかを特定することができますので、ソフトウェアの受託開発にかかるコストは売上原価です。
なお、受託開発の意思決定をしてから、顧客に引き渡し、顧客の検収が完了するまでにかかったコストを「仕掛品」として資産計上し、検収が完了したら、売上原価に計上します。
SaaSにしろ、受託開発にしろ、どのサービスを提供するために発生したコストなのかを把握するには、プロジェクト原価管理をする必要があります。
プロジェクト管理freee、勘定奉行、Team Spiritなどプロジェクト原価管理をするサービスは様々あります。
研究開発費
将来の売上を獲得するために研究開発をします。
(特にメーカー。製薬メーカーや自動車メーカーなんかはイメージしやすいでしょうか)
研究開発にかかるコストは今の売上には結びつかないけど、将来の売上に直接紐づくはず(?)だから、売上原価かなと思われた方はいないでしょうか?
もし、売上原価と思われた方は、残念。
研究開発費は販管費です。
売上に直接紐づくかどうかは大事ですが、今販売している商品等に直接的に関係するかどうかが大事で、将来の売上につながるかどうかは研究開発段階ではわからず(=資産性がない)、今の売上に直接的に関係する費用とは言えない(=原価性がない)ので、販管費とするのが原則です。
(原則としたのは、製造現場で研究開発活動を行っている場合は、原価とする余地があるためですが、研究開発費を原価とするのはレアケースと考えて良いです)
なぜ、区分するの?
なぜ、売上原価と販管費を区分するのでしょうか?
わたしが考える区分する理由は次の3つです。
- 利害関係者に正しい損益情報を提供するため
- 売値を決めるため
- 売るかどうかの意思決定をするため
利害関係者に正しい損益情報を提供するため
利害関係者というのは、株主、債権者、投資家などを指します。
利害関係者は、決算書を見て投資するかどうかを決めるのですが、決算書を作成ルールの中に、
売上ー売上原価=売上総利益、売上総利益ー販管費=営業利益というようなルールがあります。
決められたルールに基づいて、正しく利益を計算するために、原価と販管費を区分します。
売値を決めるため
そもそも、提供する商品・製品・サービスの値付けは非常に大事ですが、かかったコストより低く値付けすることは通常ありえません。
(戦略的に、コストより低く値付けすることはありますが、それは、シェア拡大など合理的な理由があってのことで、そんなことをずっと続けたら、いつか会社は潰れます)
多くの場合、発生する原価に企業が継続するために必要な利益を加えて、売値を決めるため、原価がいくらかを把握するべく、原価と販管費を区分します。
(売値と利益を決めてから、原価をこれくらいに抑えようという決め方もありますが、いずれにしても、原価がいくらかかるかを知っておく必要があり、原価と販管費を区分する必要があります)
売るかどうかの意思決定をするため
商品等を販売することで利益が見込まれるのであれば、その商品等は売るという判断しますが、損失が見込まれる場合はどうでしょうか?
損失が一時的なもので、値上げやコスト削減で利益を確保できるなら問題ないですが、競合との兼ね合いで、値上げ・コストカットができず、売上総利益がマイナスだったらどうでしょうか?
売上総利益がマイナスということは、主に固定費からなる販管費すら回収できないわけですから、合理的な経営者であれば、撤退します。
(売上総利益がプラスでも営業利益がマイナスなら撤退することもありますが。。。)
いずれにしても、事業の継続・撤退を判断するべく、原価と販管費を区分することが必要です。
まとめ
今日は、売上原価と販管費の区分について紹介しました。
原価と販管費を区分して、自社のコスト構造を知ることは、企業戦略等にも影響しますので、一度考えてみてはいかがでしょうか?
編集後記
リバプール、プレミア連敗ストップです。
ファビーニョをアンカーに戻して、守備が安定しましたね。
残り9試合全勝で、4位に滑り込めるかな?